過ごし方をデザインする、
建築とインテリア。
寶田 陵×山川洋介
UMITOスタート時から多くのプロジェクトの
設計、デザインに関わってきた山川洋介さんと寶田陵さん。
UMITOの建築やインテリア、居心地や過ごし方のデザイン、そして今後の展望についてうかがいました。
エリアや周辺環境から、過ごし方を提案する。
寶田:これまで熱海と湘南で5つのUMITOを一緒に作ってきましたが、振り返るとエリアや敷地の条件ごとに随分カラーが違いますね。
山川:海の目の前であること、小・中規模の邸宅サイズであるという根本は同じですが、コンセプトもプランも物件ごとにまったく違います。
寶田:同じエリアでも、周辺環境によって過ごし方は変わりますから。
山川:一番わかりやすく比較できるのが、熱海に建つ2棟ですよね。
寶田:熱海の街なかのにぎわいに近い《UMITO 熱海 和田浜》はアクティブに過ごすイメージ。一方で、中心部から離れた《UMITO THE GRAND AUBERGE 熱海別邸》は邸内で時間を忘れるスタイル。
山川:“熱海の海沿い”という条件は同じですが、建築のアプローチはまったく異なりますよね。和田浜はパブリックスペースを積極的に使うイメージで、ルーフトップに共有のインフィニティプールを作りました。
寶田:賑やかに過ごしている様子が目に浮かびます。アクリルプールを楽しむ水の音やジェットバスの音が聞こえたり、常に音楽が流れていたり。インテリアのデザインもウッディで格式ばらない。年齢的にも若めの人たちがにぎやかにステイするイメージです。
山川:逆に別邸は、共有スペースは最低限。プールもお風呂もすべて部屋ごとにあって、少人数でステイして静かに部屋で過ごしてもらう。
寶田:別邸の場合、きっと海の音くらいしか聞こえないんじゃないかと思います。ひとしきりゆったりとした時間を過ごしてもらう感じです。
山川:インテリアも和田浜とはずいぶん雰囲気が違いますね。
寶田:コンセプトを考えるとき、熱海指定有形文化財になっている『起雲閣』からインスピレーションを得ました。緊張感と静けさを感じる石を贅沢に使ったり、水平垂直の日本的な建築を意識しています。昔ながらの“別荘感”は別邸のほうが感じられるかもしれません。
山川:別邸と和田浜は、まさに静と動。
寶田:建築とインテリアで過ごし方そのものを提案したということですよね。
湘南エリアは都市型リゾート。
山川:熱海と湘南でもまたずいぶん違いますよね。熱海は東京から近いとはいえ、やはり基本はリゾート地。でも湘南はリアルに暮らしている人も多い地域。海沿いは住宅が密集しているので建築も都市型になります。室内の開放感は大事にしつつも、周囲からはいったん閉じた建築にならざるを得ません。
寶田:熱海に比べるとだいぶモダンなつくりですね。
山川:湘南は東京で仕事を終えてから車でサッと行けるような距離感。インテリアもそういった都市的なところは意識しています。
寶田:どちらかというと湘南の雰囲気は日常に近いですよね。海はアメリカの西海岸のような自由でハッピーな雰囲気があります。だからインテリアのマテリアルもラタンを使ったり、ザクっとした木の素材を使ったりして、完全なリゾートでも都心でもない、湘南らしいフランクな居心地を作りました。
山川:建設中の《UMITO THE GRAND AUBERGE 鎌倉 腰越》や《UMITO 鎌倉 材木座》の設計で意識したのは、石積みの擁壁であえて海の世界観と区切ったこと。どちらもにぎわいがある場所なので、その喧騒とは一線を画すという仕掛けです。その石積みの擁壁のうえに、石と対比するようなガラスなどの近代的なマテリアルで構成された建物をつくりました。
寶田:UMITO 腰越は日常のリラックス度を上げる“チルアウト”がインテリアのコンセプトです。1階にフレンチレストランがあることも特徴で、食事を兼ねてそのままゆっくり過ごせる場所です。
室内はレジデンスとして設計
山川:そもそもUMITOは別荘とホテルという二つの機能があることからも、寶田さん、インテリアもすごく考えられていますよね。
寶田:UMITOはホテルの機能もありますが、基本的な過ごし方はレジデンスを意識しています。僕が住宅を設計するとき大事にしている事が行き止まりを作らないこと。つまり回遊性を持たせることなんです。日々を過ごす場所にストレスがあってはいけないですから。広さが限られているという問題もありますが、普通のホテルは回遊性ってほとんどないんですよ。幸いUMITOは専有面積が広い建物が多いので、大半に回遊性を設けることができました。建具を引き戸にしていることも同じ理由です。
山川:水回りの広さも贅沢で、そこがUMITOらしい。主寝室とその水回りは、部屋の広さに対してかなり大胆に面積を使うことが多い。
寶田:思い切って部屋の真ん中に設けて、面積の1/4を水回りに充てる。レジデンスといっても、そこは日常のサイズ感とは異なると思うんですよ。基本的にUMITOは日常の先にある暮らしだと思う。でも当然、本来の日常ではなくて、高揚感を上げて過ごすくらいの感覚。日常の延長線上だけど、もっと気持ちのいい暮らしができる場所を想像しています。
山川:日常に近いという意味ではラグジュアリーだけど、それに捉われすぎずに過ごしてもらうというイメージもありますよね。ジャケットを羽織ってドレスアップして行くというより、スウェットやニットで気軽に行ける感じというか。そこもやはり過ごし方をデザインしている部分です。
寶田:UMITOのコンセプトのひとつが“スモールラグジュアリーで、1棟あたりが1戸~数戸と小規模ですよね。だから過ごし方までデザインしやすい部分もある。
山川:本当にそうですよね。たとえば、熱海の和田浜は共有プールのまわりにベッドを置いた1戸ずつの個別ブースを作っていますが、これが50戸あったら実現は難しい。小さいからこそできる贅沢なデザインというのがあります。
寶田:それができるのがスモールラグジュアリーなんですよね。腰越の1階につくるレストランもそうです。20席くらいのフレンチレストランになる予定ですが、その席数だからできる仕入れ、料理、サービスがあるとシェフの小川さんも話していました。
山川:大きすぎないから個性を際立たせることができるんですよね。
日常の少し先にある、記憶に残る仕掛け。
山川:日常の少し先を目指すUMITOでは、それぞれの物件に滞在することで記憶に残るような仕掛けをつくることを意識してきました。その代表的なアイテムが、和田浜や、計画中の稲村ヶ崎、秋谷にも取り入れているアクリルプール。インパクトがあるけれども、日常から逸脱しないラグジュアリーを作ることを目指しました。
寶田:そう、そのインパクトがあり過ぎないというか、尖り過ぎていないのもUMITOの良さだと思うんですよね。
山川:それは大事にしています。いかにも変わったものを建てました、みたいな感じになり過ぎないように。
寶田:誰もが心地いいと思えるような感覚みたいなものですよね。UMITOはホテルでもあり、別荘でもある。そうはいっても自宅とは違う。いくつもの機能を内包させた結果が今のUMITOのデザインになったと思います。
山川:奇をてらわず、人が普遍的に心地よいと思うものがUMITOなんですよね。しかもそれが全国各地にあって、居心地や過ごし方のバリエーションが広い。これはUMITOというシステムじゃないとできないことですね。
寶田:場所ごとに雰囲気が違って、アクティビティもそれぞれに特徴があり、用途も違う。思い付きでサッと行きたいなら腰越や材木座にいけばいいし、仲間とワイワイしたいなら和田浜、静かに過ごしたいなら別邸という具合に。
山川:UMITOは別荘でもありホテルでもあるという新しい形態ですが、結果的に建物とインテリアで新しいライフスタイルを提案することにもなりましたよね。海をどう臨むか、海をどう楽しむか、そこでどう過ごすか、すべて海とセットで提案できていると思います。
寶田:きっと物件ごとに行く目的も違うし、一緒に行くメンバーやファッションも変わってくるかもしれない。こういう軽やかなスタイルってすごく今っぽい。ぜひ多くの方にUMITOスタイルで新しい日常を過ごしてもらいたいと思います。
山川:今後、湘南を代表する稲村ヶ崎や、秋谷にも増えていきます。
寶田:UMITOの滞在スタイルはまだまだ広がりそうですね。