UMITO鎌倉腰越が創り出す
“チルアウトな空間”への建築家のこだわり

寶田 陵

希少な鎌倉の海沿いに、UMITO 鎌倉 腰越が完成。
「レストランひらまつ広尾」の元料理長の小川シェフが腕を振るうレストラン“Le RESTAURANT”で美食を愉しみ、ゆっくり宿泊できるオーベルジュスタイルのホテルが誕生しました。
2室限定の特別なスモールラグジュアリーホテルUMITO鎌倉腰越の、構想から設計を担当した建築家の寶田氏に話をうかがいました。

コンセプトは“湘南のチルアウトな空間”“時間と美食のオーベルジュ”

UMITO鎌倉腰越はどんなコンセプトでデザインされたのでしょうか。

全体的に、高級感は持ちつつほんの少しだけ敷居を下げた「肩肘張らない、チルアウトなラグジュアリー」空間を意識しました。ロサンゼルスの西海岸にあるカジュアルラグジュアリーな別荘からインスピレーションされた湘南のレストラン&リゾートがイメージです。

UMITO鎌倉腰越はホテルではなくオーベルジュなので、わかりやすいラグジュアリー感より、湘南のリゾート感を作りたかった。都心からパッと来てレストランで食事をしたらそのまま泊まることができてゆっくり過ごせる、そのくらいの堅苦しさのない場所があったら嬉しいですよね。

※オーベルジュ…フランスでは郊外に点在する、「レストランで食事を愉しみながら宿泊できる建物」の呼称。五つ星クラスのメゾンやレストランが経営しているケースが多い。

UMITO 鎌倉腰越の外観

「わかりやすいラグジュアリー」ではなく「カジュアルラグジュアリー」にしたのはなぜですか?

UMITOにいらっしゃるお客様は、大理石などのわかりやすいラグジュアリー感は見慣れていますから、その日常の景色がここにあると日常を超える時間を過ごせないのではないかと思いました。だからこそ、従来のラグジュアリーホテルとは全く違うものにしたく、都会にある緊張感から解放される場所を目指しました。

なるほど。建物全体を見るとミッドセンチュリーな雰囲気を感じられるのですが、そのような思いが反映されているからでしょうか。

そうですね、ミッドセンチュリーは本物志向の中にも有機的な親しみやすさがあります。今回はチルアウト・ハイドアウト(隠れ家)にこだわった結果、有機的な素材や本物の自然素材に辿り着いたように思います。ミッドセンチュリーのような思想は、王道のラグジュアリー感に飽きた方や、比較的若い世代に人気が広がっていますし、UMITO鎌倉腰越が目指すオーベルジュの姿を表していると思います。

※ミッドセンチュリー…20世紀の中ごろ、特に1940年代から1960年代にかけて発展したデザイン。シンプルで機能的でありながら、曲線や有機的な形を取り入れて温かみを感じさせるのが特徴。

幅広い世代が都会の喧騒から離れて気軽にゆっくりと過ごせる場所、ということですね。

はい。老若男女問わずハイドアウトな空間で肩の力を抜いてリラックスするチルアウトな時間を過ごしていただきたいです。

小川シェフの理想を具現化したレストラン

UMITO鎌倉腰越の主役はやはり小川大樹シェフの𝖫𝖾 𝖱𝖤𝖲𝖳𝖠𝖴𝖱𝖠𝖭𝖳だと思いますが、レストランのデザインについてはどのように着想を得たのでしょうか。

小川シェフの思い描いた理想のレストランは北欧の五つ星レストランを思わせるイメージがあり、その世界観を実現しました。

小川シェフのイメージそのままなのですね。実現するにあたって寶田さんの持つイメージとの乖離はなかったのでしょうか。

はじめに建築の依頼をいただいたときは、まだレストランについての詳細が決まっていなかったので、先に客室のデザインからはじめました。そのため私なりのレストランイメージはあったのですが、その後に聞いた小川シェフのレストランのイメージは、私が思い描いていた腰越全体の思想の軸と考え方は近いところにありました。あとはより細かくすり合わせて今の形になったのですが、目指す方向性が近いからか、大きな乖離は感じませんでしたね。

𝖫𝖾 𝖱𝖤𝖲𝖳𝖠𝖴𝖱𝖠𝖭𝖳のテラス 鎌倉の海と江の島を見渡せる
𝖫𝖾 𝖱𝖤𝖲𝖳𝖠𝖴𝖱𝖠𝖭𝖳の内装とインテリア 食器・カトラリーなど細部にまでこだわっている

インテリアやアートもとても洗練されていますが、それぞれどのように選定したのでしょうか。

海沿いのレストランということで、ここから見える景色に呼応したものが内装にも反映されています。例えばインテリアの藍色だったり、クッションの波模様柄がわかりやすいですね。

また、飾っているアート作品は全て波や海にまつわるもので統一しています。全てが目の前の海とリンクしているのでその繋がりも感じていただきたいです。とはいえ、お客様に愉しんでいただきたいのは本物の海の景色なので、アートは影や形状などで室内に波を取り込んだような控えめかつカジュアルな表現にしています。

𝖫𝖾 𝖱𝖤𝖲𝖳𝖠𝖴𝖱𝖠𝖭𝖳の内装 海に関連する自然素材や、海を彷彿とさせるオブジェを装飾に入れ込んでいる
𝖫𝖾 𝖱𝖤𝖲𝖳𝖠𝖴𝖱𝖠𝖭𝖳のエントランスラウンジ 海をイメージしたアートを配置している

レストランとコンセプトで繋がる客室

UMITO鎌倉腰越の客室へのこだわりについてお聞かせください。

先ほどもお話したような、「レストランで食事をしたあとそのまま宿泊し、ゆっくり過ごせる」というような「レストランに宿泊する」スタイルの客室なので、通常のホテルのようにレストランと客室でデザインを完全に変えることはしたくありませんでした。そうはいっても全く同じデザインにするわけにはいきませんので、レストランの延長線上にあるようなデザイン感で統一して、通りすがりの人がパッと見たときに客室なのかレストランの個室なのかわからないくらい、交ざって馴染んだデザインにすることにこだわりました。

具体的にどういったところを統一したのでしょうか。

カジュアルラグジュアリーというコンセプトと、内装やインテリアの選定基準を統一しました。ここでお客様に得ていただきたいチル体験はレストランでもホテルでも変わらないので、そこはブレないようにしたい。でも全く同じものを使用しているというわけではなく、同じコンセプトの中でも少しだけ変えています。例えば照明は、レストランではマットな質感のもの、客室では艶のある鏡面のものと違うものを使用しています。
ちなみに照明の笠の鏡面に窓から見える海が映る角度など、細部までこだわっています。

客室 照明の笠に鎌倉の海が映り込むよう計算している

客室といえばバスルームの天然石の凹凸感、自然本来の色味と質感が非常に印象的でした。従来のラグジュアリーホテルにない素材をあえて使用したのはどういったこだわりがあるのでしょうか。

外の石積み擁壁と同じ石を使うことによって室内でありながら外とつながっているように感じられるようにしたかった。せっかく海がみえる露天風呂なので、海に入るくらいの開放的な気持ちで楽しんでほしいです。

床にはさざなみをイメージしたタイルを使用して、光の反射によっては海と続いているかのようにも感じる明るくて不思議な雰囲気を作りました。

バスルーム 床のタイルはさざ波をイメージしている
バスルーム 壁面の石は外観の擁壁と同じ石が張り巡らせている

UMITOの名に相応しい開放感を感じられますね!

そう思います。石積み擁壁と内装に同じ石を使うというのは手作業の工程も手間もかかり、費用もかかるのであまり施さない珍しい手法ですが、それが内と外をつなぎながらの開放感演出に一役買っていると思います。

高級感は5cmのゆとりが生み出す

最後に、寳田さんが考えるラグジュアリーとは何か、お聞かせください。

正直、ラグジュアリーの定義は人によって違いすぎるのでこれと決めるのが難しいですね。ただ都心のレジデンスにあるような高級な素材に囲まれた空間=ラグジュアリーではないとは思っています。

例えるならどんなものですか?

例えばインテリアの手触りが良かったり、いつも使っているものよりサイズが大きくて、動作を大きくしてゆっくりと時間を使うことだったり、あるいはいつもより5cm幅が広い廊下とか、そういう仕草や所作を重ねた空間ってラグジュアリーだと思いませんか?

すべてがゆったりと余裕のある”間”を大切にしている UMITO 鎌倉 腰越の空間

確かに。UMITO鎌倉腰越にはそのようなラグジュアリー感を取り入れているのでしょうか。

はい。レストランも客室も、少し広めの空間に本物の素材感とワンサイズ大きなものの重なりで構成しています。肩の力を抜いて、リラックスした空間を贅沢に使って過ごしていただきたいです。小さなゆとりが紡いだラグジュアリーなその世界観が、チルアウトな体験に繋がっていくと思っています。

UMITO 鎌倉 腰越の詳細はこちら

寶田 陵デザイナー/建築家

1971年 東京都生まれ。日本大学理工学部海洋建築工学科卒業。 設計事務所や大手ゼネコン設計部 を経て、2016年にthe range design INC.を設立。ホテル、旅館、共同住宅、商業施設、オフィス等、 幅広い分野で建築設計及びインテリアデザインを手掛ける。近年はプロデュースやプロダクトデザイン、著書『実測 世界のデザインホテル』(学芸出版社)など活動の幅を広げ、新しいライフスタイルを生み出す建築・空間づくりにチャレンジしている。

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