建築は環境や文化という土地の文脈の一部。
その文脈をよりよく進化させるものだと捉えています
建築家 Riccardo Tossani
沖縄と北海道という日本を代表するリゾート地で計画が進む。
UMITO×リカルド・トッサーニ氏のプロジェクト。
これまで多くの別荘やホテル、コンドミニアムをつくり、
世界水準のラグジュアリースタイルを日本に広めてきたトッサーニ氏に、
プロジェクトの見どころをうかがった。
リカルドトッサーニ UMITO マスタープラン
建築は、環境や文化をより魅力的に進化させるもの
沖縄本島・離島に北海道と、日本の南北両端で複数のプロジェクトが進んでいる。気候も文化もまったく異なる場所であることは、建築の考え方にどのような影響を与えているのだろうか。
「建築と自然環境は正反対の存在だと思われがちですが、それはまったく違います。建築は、自然環境や土地に根付く文化・歴史の上に成り立つもの。環境や文化と切り離されるものではなく、それらを建築に取り込み、さらにその特徴をより魅力的に進化させるものであるべきなのです。建築は自然環境の一部。つまり、UMITOの場所が沖縄であっても北海道であっても、環境や文化に従うという意味でアプローチは同じです」
沖縄本島・離島はUMITOのコンセプトどおり海の目の前であり、対する北海道・ニセコは羊蹄山を望む壮大なロケーション。どこも豊かな自然環境が魅力的な場所だ。
「沖縄エリアであれば、ビーチに直接アクセスできるか否かという違いはありますが、どこも海が目の前です。とはいえエリアや島の環境は本当にそれぞれ。石灰岩の岩肌が特徴的な場所もあれば、ジャングルの中という敷地もある。一方、北海道のニセコは羊蹄山を望む壮大なロケーション。自然といってもロケーションごとにそこにある要素は違いますから、周囲の海、山、畑、ジャングルなどの自然環境を取り込む、あるいは自然をダイレクトに感じさせるという考え方でアプローチしています。これらのダイナミックな自然環境は、間違いなくUMITOを訪れる人に大きな喜びを与えてくれるでしょう」
ひとつひとつの建築から、マスタープランを導いていく
トッサーニ氏はニセコのマスタープラン構築に深く関わり、ニセコを世界的なリゾート地にした立役者としても知られている。今回の沖縄でもエリア全体として機能やゾーニングを考えているのだろうか。
「建築とマスタープランは切り離して考えることはできません。と同時に我々は建築設計事務所ですので、ひとつひとつの敷地を分析し、そこに適した建物を具体的に想定してから、その点と点のネットワークをどのように構築していくかということでマスタープランニングを考えます。たとえば沖縄では、海の前という敷地の特性とそこに根付く文化、そこに来る人たちをイメージしながら、さらにUMITOというシステムも考慮して検討しました。また、複数の敷地に計画している宮古島では、個別の建築を相互に関連づけることでより豊かな滞在、機能に結びつくと考えました。つまりマスタープランありきではなく、環境と文化のうえに成立した建築から、マスタープランを導いていくということです」
驚きに満ちた建築とは
国内外でラグジュアリーな別荘、コンドミニアム、ホテルを設計してきたトッサーニ氏。スモールラグジュアリーをコンセプトとするUMITOの設計において、とくに意識したことはあるのだろうか。
「沖縄であっても北海道であっても、UMITOにはリゾートという共通性があります。リゾートというのは当然、リラックスできる空間であることが大前提です。ただ、それだけではありきたりな建築になってしまいますから、建物を見たとき、建物の中に入ったとき、そして空間のなかで過ごし、ステイしているときそれぞれに、驚きに満ちた建築を作ることが重要だと考えています。その驚きを実現するために、我々は可能な限り自然環境と協業するのです。海や山、ジャングルといった周囲の自然環境を空間に取り込んだり、もしくは経験として取り入れることを常に考えています。楽しむこと、記憶に残ること、有意義な経験を提供できること。その視点をUMITOでは強く意識しました」
トッサーニ氏が手掛けるUMITOは、プロジェクトごとに特徴的な自然環境に置かれている。その環境を取り込むテクニックを伺ってみた。
「ユニットの配置計画はもちろん、驚かせるための空間計画も必要です。たとえば、時間や季節による太陽光の変化を考慮した開口部だったり、あえて視界を調整した回廊を作り、回廊から部屋に入ったときの海と一体化したワイドなヴューだったり。人々の体験を導いていくことで、発見や驚きを仕掛けるのです。物理的な経験をコントロールし、人間の本能的な感性を刺激することは、建築家が関わることができる重要な仕事だと思います。我々が手掛けるUMITOだけでも5つのプロジェクトが進行中で、それぞれ環境が違います。当然そこでの驚きも発見も体験もバリエーション豊か。その多様な体験を得られることもUMITOを持つ楽しみのひとつではないでしょうか」
別荘とホテルを成立させる方法とは?
UMITOは別荘とホテルのふたつの機能を同時にもつ新しいシステム。そのことが建築に与える影響はあるのだろうか。
「我々は個人住宅をはじめ、リゾートマンションやホテル、コンドミニアムなどさまざまな形態の建物を設計します。個人所有の建物はオーナーが長期滞在することが基本で、機能もデザインもオーナーの意向が強く反映されるものです。一方、ホテルの場合、滞在期間は短いうえ、多くの人が利用することになりますから、誰にとっても心地よい空間と使い勝手が求められます。確かに違うベクトルになる部分もありますのでその調整は必要ですが、それはさほど難しいことではありません。我々はホテルゲストとレジデンスのオーナーのさまざまなニーズを理解していますし、経験も知識もあります。別荘とホテルというと特別なシステムと思われるかもしれませんが。我々にとっては非常に一般的なニーズという感覚。機能性、効率性、経済性すべてを考慮しながらうまく調和させることは難しいことではありません」
土地の自然と調和しながら、ウェルカミングなインテリアに
これまでトッサーニ氏が手掛けてきた建築は、モダンでラグジュアリーなインテリアも大きな魅力。UMITOにおける建物の素材、ディテール、インテリアの展望についても伺った。
「建築に使う素材、インテリアも、建物の考え方と同じです。つまり、自然環境との調和が私たちの建築コンセントのキーになっていることは間違いありません。建設が進んでいるニセコを例に話しましょうか。ご存知のとおり、ニセコはウィンターリゾートとして名の知られた自然豊かな場所。冬はたくさんの雪が積もりますので、森、山、雪という自然環境をキーワードに素材や色を選定しました。外観は自然の森と調和するよう、風合い豊かな幅の異なる木材で構成しています。そこに、モダンな黒い窓枠でバランスをとりました。室内はオーク材の壁、天井、床、石など天然素材がふんだんに使われています。また、暖炉や温かみのある木の家具など、周囲の自然豊かな環境に添うような素材感にまとめました。とはいえ、ただ素朴な自然素材を使うのとは違います。素材とデザインの選択により、温かみのなかに軽やかさ、モダンさを感じられるように工夫しています。また、多くの人が利用するリゾートですから、照明の工夫などでフレンドリーな雰囲気も創り出すようにしています。天井が高くラグジュアリーでダイナミックな空間ではありますが、温かみのある柔らかな照明、カーテンなどの工夫によってウェルカミングな雰囲気を感じさせる。ラグジュアリーとウェルカミングとは相反するようですが、素材、照明、家具のセレクトで両立させることができるのです」
モダンでラグジュアリーのイメージが強いトッサーニ建築だが、実際には自然環境、文化をもっとも大切にした建築といえるのかもしれない。
「我々の建築は自然環境に従順であり、環境、方角、眺めなど敷地に従って構築していくものと考えています。繰り返しにはなりますが、私たちの建築は環境や文化という土地の文脈の一部。その文脈をよりよく進化させるものだと捉えています」
魅力的な自然環境、文化に恵まれた地に計画中のUMITO×トッサーニ氏のプロジェクト。沖縄、北海道の価値をさらに更新させ、そこにステイする時間、所有する価値を高めていくことを予感させる。
文・構成 荒井直子